『脚下照顧』

俺の本業は・・・接骨院業務

その接骨院に・・・開院当初から現在まで約20年、一人のお婆様(「福さん」と呼ばせていただこうと思う)がお出でくださる

御年・・・94歳

 

その福さんが・・・10月初旬に、お亡くなりになられた

 

 

俺は・・・福さんが、大好きやった

もちろん、「患者様」ではあるんやけど・・・

俺と明美さんのことを・・・ものごっつい、可愛がってくれたし・・・俺は、自分のお祖母ちゃんのような感覚でお付き合いさせていただいとった

 

 

接骨院に来院された際、真夏で炎天下になってしもうたり、雨や雪が降ったら・・・ご自宅まで、お送りさせていただくことは、もちろん・・・

家庭の都合で、施設にショートステイで入所したら・・・和菓子を持って、訪ねていったり・・・

近所の卸町フェスタ?が開催されたら・・・一緒に行こうって、誘ってみたり(お体の都合で、実際には行かれへんかってんけど)・・・

ほっともっとの「のり弁当」が好きで・・・よく頼まれて、買いに行ったり(いつも、俺の分まで買ってくれた)・・・

いろんなことを、教えていただいたし・・・いろんな話を、聞かせていただいた

 

 

実際に、福さんは・・・俺を、可愛がってくれとったんか?・・・それとも、普通に接してくれとっただけなんか?・・・・・は、俺には分からへん

せやけど・・・受け取る側の俺からしたら・・・

ものごっつい、可愛がってもらったって、心の底から感じてるし・・・

せやから、今回・・・

お顔を拝見しに、ご自宅に伺わせていただいたねんけど・・・俺、涙が止まれへんかったよ

 

 

 

俺は・・・そんな福さんから、「まごころ」をいただいたことがある

 

もう、10年以上前のことになるけど・・・

俺が「北岡道場」を設立して、数年が経った頃の話

 

30代後半やった俺は・・・俺より年上のご父兄たちとの狭間で、道場運営に頭打ちをしとった

人が信じられへんようになって、心が荒んでしもうて・・・

水曜日と土曜日に、道場に行くのが苦痛で苦痛で仕方のない日々を過ごしてた

 

人間っちゅうのは・・・愚かなもんで・・・

なかなか、自分自身の心の中を割り切られへんもんやよなぁ?

「柔道」は「柔道」・・・

「仕事」は「仕事」・・・

「家庭」は「家庭」・・・

そない線引きすることができへんかった俺は・・・

その頃・・・日常生活でも、ずっと嫌な思いを抱え込んだままでおった

 

正直・・・心の中はグチャグチャで、鬱的な状態でもあったと思う

それでも・・・仕事(接骨院業務)は、休むわけにもいかへん

 

せやけど・・・

割り切ろうと思えば思うほど・・・雁字搦めになってしもうて、負のスパイラルから抜け出されへんようになってしもうてた

自分の心の中が、窮屈で窮屈で・・・この上なく、シンドイ時期やった

 

 

そんな折やった

なんでやろう?・・・接骨院に来られた福さんが、俺に向かって、こない仰られた

 

「頑張んなきゃ、ダメだどぉ~  頑張んなきゃ、ダメなんだ!」

(宮城県の昔訛りの口調で・・・)

 

「何を、頑張れ!」とは言わず・・・すべてを見透かしてるかのように・・・ただただ、そう仰られた

 

俺は・・・その言葉が、俺自身の乾いた心を一瞬で潤わせてくれたように感じて・・・

「はい!」って言いながら・・・

奥歯を思いっ切り噛みしめて・・・福さんに悟られへんように声を押し殺して泣いた

 

 

実は、福さん・・・目が不自由(ものごっつい、弱視)な方で・・・

光は感じることはできるみたいやねんけど・・・実際には、ほとんど見えへん状態

 

せやから・・・

俺の落ち込んでる顔(もちろん、患者様に対しては、落ち込んだ顔なんかしてへんつもりでおったけど)なんかは、絶対に認識できへんはずやのに・・・

それに、道場運営のことなんか・・・福さんに話したことは、いっぺんもあれへんのに・・・

 

せやのに、いきなり・・・すべてを悟ってたかのように・・・

「頑張んなきゃ、ダメなんだ!」

・・・・・そない、俺に仰られた

 

目が不自由な分・・・来院されるたびに、俺の声のトーンなんかで、毎回何かを感じ取られとったんかも知れへんけど・・・

いずれにしても・・・

俺なんかのことを、気に掛けてくださってたってことも含めて・・・

ものごっつい嬉しくて・・・俺は、涙が止まれへんかった

 

 

もちろん・・・福さんからいただいたもんは、それだけではあれへんねんけど・・・

その一件は・・・当時の俺にとっては、ものごっつい衝撃的なことで・・・

それと同時に・・・前を向いて頑張れる力を与えていただいた、大きくて温かい、福さんの「まごころ」やったなぁ

 

 

最近、年を取ったんか?・・・また、仏教の勉強もしてるからなんか?も知れへんけど・・・

いろんな方々に支えられて(きて)・・・いろんな方々から助言をいただいて(きて)・・・いろんな方々から助けられて(きて)・・・

「『今』の自分っていうのが、ここに存在できてるんやろなぁ?」って、考えることが・・・ホンマに多くなった

 

 

俺の大好きな、大阿闍梨:酒井雄哉さんの本にも・・・こない書かれとったんやけど・・・

 

人は、自分で「生きてる」って思てるヤツほど、足元が見えてへん

いろんなものに「生かされてる」と分かってる人は、根っこや足元に目が向く

 

その「意味」っちゅうんか?・・・

その「答え」っちゅうんか?・・・

もちろん、自分自身が得心したら・・・それが、その人の「答え」っちゅうもんになるんやろうと思うんやけど・・・

 

俺自身は・・・

そのフレーズを、何べんも何べんも読み返して、己自身の人生と照らし合わせた結果・・・こないな解釈に結び付けた

 

 

自分で「生きてる」って思ってる人は・・・

「次は、あそこに行こう」・・・「次は、あれを得よう」・・・「次は、ああしてやろう」etc・・・

そない思って・・・背伸びをして、遠くを見ては、「もっと先へ、もっと先へ」って・・・足元には目を向けへん

 

せやけど・・・

 

いろんなものに「生かされてる」と思ってる人は・・・

「自分は・・・誰のお陰で、何のお陰で、この場に立っていられるんやろう?」って、今の自分の立ち位置・・・足元に目を向ける

それと同時に、後ろを振り返っては・・・

「今まで、どれだけの人に支えられてきたんやろう?  いろんな方々から、どれだけの言葉、どれだけの情、どれだけの想いをいただいてきたんやろう?  どれだけの人に、背中を押していただいたんやろう?」って考える

せやからこそ・・・

「次の一歩は、どこに向けて踏み出すんべきなんやろう?」って・・・「思いやり」を持って考える

 

 

「夢」や「目標」を持つことは・・・決して、悪いことではあれへんし・・・

また・・・

「我欲」や「利欲」を持つことも・・・誰かに否定されるような筋合いは一切あれへん

 

せやけど・・・

いっぺん立ち止まって・・・足元に、目を向けてみるのもええんとちゃうんかな?

ほんなら・・・

背伸びしてる時以上に・・・自分にとって、大切なもんが見えてくるような気がするなぁ?

 

 

日本には・・・ものごっつい、ええ言葉が存在しよるやんか?

 

『脚下照顧』

 

 

 

 

今回、あらためて・・・

それを、福さんから教えていただいた気がした

 

 

もう、福さんから・・・

何かを教えていただくことはできへんし・・・

いろんなお話を聞かせていただくこともできへん

 

せやけど・・・

福さんからいただいた、「まごころ」を・・・誰かに与えてあげることはできる

 

 

福さん

ありがとうございました!

ゆっくりと、お休みください

合掌

 

 

We Can Do It!

Yey!!

 

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