『必然』10(閉ざされた未来)

迎えた、関東予選当日・・・

1回戦を、難なく一本勝ちで勝った俺は・・・続く2回戦、南條選手と畳の上で向かい合った

 

一礼をして、一歩前に出た状態までいったのに、時計の問題なんか?審判(副審)の問題なんか?・・・一旦、試合会場の外に出された

闘争本能剥き出しで、俺の頭の中は、今にもシリンダーヘッドが飛び出してしまうんとちゃうか?っちゅうくらい、ギンギンに熱くなっとったから・・・その時間で、ちょっと冷静さを取り戻せたような気がした

 

大きく深呼吸して・・・仕切り直し

冷静になれたことで・・・序盤から、相手の動きを見切ることができた

袖釣り込み腰、飛び十字関節、隅返し、背負い投げ、左一本背負い・・・

ポイントを奪うことはできへんかったけど・・・5分間の試合時間をちゃんと組み立てて、要所要所で自分の思い通りの動き・試合展開ができた

 

南條選手は・・・喧嘩四つ(左組)から、低い背負い投げを何度も撃ってきた

背負い投げは、きっちり凌いだねんけど・・・その背負い投げの後、必ず寝技に引き込んでくるっていう展開が繰り返された

3回目やったか?4回目やったか?に、寝技に引き込まれた時・・・俺は、熱くなり過ぎしもうて・・・

「引き込んでばっかりすんじゃねぇよ! この野郎!!」って吐き出しながら、南條選手の足を弾き飛ばしてもうた

当然、審判から・・・お咎めを受けたのは、言うまでもないけどな

 

 

試合は・・・一進一退のまま、終了を迎えた

 

旗判定・・・「2-1」

俺は・・・負けた

寝技の攻撃を見られたんか?試合の流れを見られたんか?・・・いずれにしても、俺は負けてしもうた

 

その「負け」によって・・・俺が目標にしとった、いや限りなく現実味を帯びとった、「全日本学生体重別選手権」~「講道館杯」への道は、完全に閉ざされてしもうた

なんとしてでも・・・学生の間に、その流れに乗っておきたいって考えとった俺は・・・歯が折れてまうんとちゃうか?っていうくらい、奥歯をかみしめた

 

悔しくて悔しくて、飲んどったペットボトルを地面に思いっきり叩きつけて・・・「クソッたれがっ~!!」って、大声で叫んだ

自分の「負け」を、自分自身で受け入れることができへんかった俺は・・・メッチャ荒れて、メッチャ落ち込んだ

 

その落ち込みを物語るかのように・・・

実は・・・試合が終わった直後辺りまでは覚えてるんやけど・・・その後の記憶は、俺の頭の中からすっぽりと消えてる

もちろん、国際武道大学から、各階級4名ずつ出場してるもんやから・・・すべての大会が終わるまで、観覧席で観てたはずなんやけど・・・俺は、どこで何をしとったんか?何ひとつ記憶してない

もっと言うたら・・・

その日・・・埼玉県の会場から千葉県勝浦の大学の寮まで、どないして帰ったんか?さえ、まったく記憶にはあれはへんねん

それくらい・・・俺の中では、時が止まってしもうてた

 

 

俺は・・・目標がなくなってしもうた

現実的に、学生柔道が終わってもうたことで・・・自分自身に、これから先に見出せるもんが見当たれへんくて・・・

俺は・・・完全に、抜け殻になっとった

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